美術館の長い夜、そぞろ。


しみにしていた「Lange Nacht der Museen(ランゲ・ナハト・デア・ムーゼン:美術館の長い夜)」を迎えました。
 毎年1月と8月にベルリンで開かれているこの催し。100カ所以上の美術館、博物館、文化施設が一斉に、夕方の6時から夜中の2時まで夜間オープンするのです。し・か・も、ただ開館時間が長いだけではなく、各所で一夜限りの特別な演出が目白押し!例えば、上の写真のように美術館内でダンスのパフォーマンスがあったり、音楽の演奏、芝居、本の朗読など趣向を凝らせたイベントが企画されるのです。多くは、美術館の空間を活かしたコラボレーション的な内容、または展示作品の解説を助けるものなので、突然遭遇してもまったく違和感がありません。むしろ昼間一人で静かに鑑賞する美術館とは違った雰囲気が楽しめてワクワク。ホワイエにはシャンパンやワインを片手に談笑する人たちも。心なしか、学芸員の人たちもお洒落して張り切っている様にみえました。

Lange Nacht der Museen参加施設に共通するチケット(12ユーロ)。専用のシャトルバス(素人っぽいバスガイド付き)にもこれで乗れます♪ とはいえ、時間は限られているので、どこに行くか迷う・・・
まずは、美しくライトアップされたGemäldegalerieへ。ここには世界で30点程しかないフェルメール<*1>の作品が2点もある上、レンブラントラファエロボッティチェリなど名だたる巨匠の作品が満載。13~18世紀のオランダ絵画のコレクションには特に定評があり、当時にタイムスリップしたような気分に浸れます。でも、ここでさっそく毎回陥る鑑賞の罠に。 古い時代から展示していくと仕方ないのかもしれませんが、ヨーロッパの美術館って宗教画から展示が始まっていることが多く・・・いつも前半で宗教画を観すぎて、時間的にも体力的にもグタッとなってしまうのです。今回も気をつけていたのに、けっこう宗教画の前で長時間過ごしてしまいました。
当たり前ですが「もうすぐだよ」なんて看板はないので、フェルメールとは突然の対面。間近で観れて感激です。構図、寓意、光の描き方、遠近法のことなど、フェルメールのすごい点については、素人でも画集から感じ取れるぐらい(絵の方に)力がありますが、こと画肌の美しさは写真では分からない実物だけのもの。いつまで観ていても飽きない完全にオリジナルの美。 「また観たい」じゃなくて、「また会いたい」と思わせる不思議な魅力に吸い込まれました。(写真を撮ってみましたが、一応ってかんじで・・・「紳士とワインを飲む女」。左には隠れてるけど「真珠の首飾りの少女」が。)

ところどころからクラリネットの音が聴こえてくれば、それを合図に学芸員の解説が始まります。順路が全長2㎞もある広い美術館・・・あまりのお腹一杯具合にブリューゲルモーツァルトの最後の肖像画などを見逃した〜。観たなかで印象的だったのは、カラヴァッジオの“愛が全てに打ち勝つ”という天使の絵。こりゃあ、また観に行かないと、やっぱり1回で全部観て回るのは無理!でも、次へ・・・。

電光が「Lange Nacht der Museen」と示すバスに乗って、ゆらゆら向かうはHamburger Bahnhof。今度は現代美術を観ます。Bahnhof(バーンホーフ)って、ドイツ語で「駅」のこと。ここは、1996年に昔の駅舎を利用してオープンした美術館なのです。とても人気があって、おそらく私の友だちにも「ベルリンで好きな美術館はどこ?」と聞いたら、全員がここって言うんじゃないかと思います。でも、先に行ったGemäldegalerieが混みすぎていたので、こちらの方がゆったりしているように感じました。

駅を彷彿とさせる構造。この「歴史ホール」は全体のほんの一部で、実際はものすごーく広大な美術館です。それに、現代美術だし・・・(なんでここの階段だけ壁が赤いんだろう)とか思いながら歩いてたら、それも実は作品だったりして、脳にグリグリきます。キーファー、ウォーホール、ヨゼフ・ボイス(展示が殺風景なのは意図かしら〜わらかない〜)などの常設展に加えて、始まったばかりの「RESET」という企画展(08年8月なで)など、ここでも膨大なコレクションを観ました。               ウォーホールを始め、リキテンシュタインシンディ・シャーマンの印象的な言葉が壁に書いてある部屋などに立ち止まりながら歩いていると、突然ピカソとか近代の作品が出てきたりしてびっくり。展示の構成のユーモアがベルリンっぽい・・・と思ってしまう。ここで、Cy Twonbly(サイ・トゥオンブリ<*2>のイノセントな抽象画に出会って嬉しかった。

マシュー・バーニーの「クレマスター5」の映像前に長時間居座りながら、しばし足を休め・・・さらに続いてRieckhallenという別館へ。あらま、なにこの広さ↑奥が見えない。この廊下に沿った各部屋に、展示がわんさかあります。全部パトロールしたらさすがにぐったり。そうしたら、そんなところにトドメのPaul McCARTHY。すごく広い場所にグロい映像が・・・あぁあ。もう私には時代性とか芸術とか分かりません!ごめんなさい!ってなりました。すっかりヘビーなアートに酔っぱらって、フェルメールとのランデブーも遠い彼方の思ひ出のよう・・・。しかし、まだこの後には、地下展示室もあるのでした(最後は笑えるビデオインスタレーションの連続で、すごくHAPPYになれました。よかった)。              ここの美術館にもまた行かねば!と思います。今度は女性シェフの名前がついた併設のカフェ・レストランSara Wienerにも入ってみたいなぁ。

 この日(いいなぁ)と思ったのは観た作品だけじゃなくて、普段、美術館ではまず見かけることがないパンクのカップルが手をつないで絵を観ていたこととか、部屋から部屋へ走り回ってても怒られてない子どもたちとか、お酒を飲んでニコニコ頬を染めて作品を観てる人の顔とか。そういうところにも、あっ!と惹かれる光がありました。老若男女、いろんな人がアートを楽しむ夜。日本でも、今のような美術館が個々に開催するやり方ではなくて、まとまって大規模にロングナイトミュージアムが催されるようになったら素敵だなぁ〜と思います。どこに行こうかな!と頭を悩ませ、アートで酔っぱらう体験をまたしたいなぁ。
 さて、最後はZooのアクアリウム!と決めていましたが、早々とここだけ12時に閉館していました(早く閉まるなんて知らなかった。残念!)。というわけで、2時までみっちり観て回る予定でしたが、もうぐったりしていたのでこれにて終了。私的にタイトルを「ビールの長い夜」に変更!!!  その後も、楽しい夜が続きました☆(あ、減酒はちゃんと続けてますよ)

<*1> フェルメール・・・今年は8月に上野の東京都美術館で、フェルメールをいっきに6点以上も集めて展示する「フェルメール展(仮称)」があるらしいです。日本ってすごい。
<*2> サイ・トゥオンブリ・・・作風から女性かと思いきや、今年で80歳を迎えるおじいちゃま。去年の夏、展示中の絵(3億円)にキスした人がいて話題に。きゃー、たいへ〜ん!